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このページはこちらに移転しました ホローポイント 作詞/一(にのまえ) 火花散らし 今 鉄の弾が 飛んでいった 向かった先は 男の脇腹 肉裂いて 骨砕いて 咲いた鉄の花 ブラックタロン ブラックタロン ブラックタロン ブラックタロン 黒い花 男の体内を裂いた花 男の体内で咲いた花 肉を裂き 血を吸って 咲いた花の名は ブラックタロン ブラックタロン ブラックタロン ブラックタロン 黒い花 (このページは旧wikiから転載されました)
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俺の声が聞こえるか! [部分編集] 相剋の軌跡 OPERATION O-X10 茶 1-3-0 U (帰還ステップ):《R》自軍バルチャーポイントを-Xする。その場合、敵軍ジャンクヤードにあるユニット1枚を、自軍配備エリアにロール状態で出す。Xの値は、そのユニットのコストの合計値とする。
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このこえがかれても-そうるいか-【登録タグ Cusim Project KAITO こ 曲 歌蝶風月P 黙れP】 作詞:歌蝶風月P(Cusim Project) 作曲:歌蝶風月P(Cusim Project) 編曲:歌蝶風月P(Cusim Project) 唄:KAITO(調声:黙れP) 曲紹介 この声が枯れてものリメイク作品。 !カイメイ 流血注意! 動画をモコラント(Cusim Project)氏が制作。 調声とミックスを黙れPが担当。 歌詞 (作者サイト配布のZIPファイルより転載) 血と焔(ほむら)滾る戦場(いくさば)に 弔いの唄は聴こえない 兵(つわもの)達の鬨(とき)の声は 地の果てに落ちて消えていく 不意に背に掛かる温かな重み 流れ落ちる紅い滝 足下に広がる赤華(あかばな)は 愛した人の命 響く響く我が声 想い乗せ叫ぶ 君が名を 響く響く鉄音(かなおと) 君が残り香は血煙にかき消され 砂塵舞い上がる風の果て 君が温もりは散っていく 葬った命 数知れねど 君の生命(そんざい)は大きくて 溢れた想い頬を伝い落ちる 拭う手はもう動かず 足下に広がる赤華は 地に吸われ枯れ朽ちる 届け届け我が声 彼岸へ旅立つ君が光 届け届け我が腕 此岸(しがん)へ留まれ もう一度微笑んで “貴方だけでも護れて良かった” (貴方だけでも護れて良かった) 囁く君が声 “先に逝くけど生きて幸せに” (先に逝くけど生きて幸せに) なんて残酷な優しさ (次の世でまた逢えるまで) 響く響く我が声 枯れ朽ちた花を抱きしめて 響く響く我が声 共にいた夢よ もう一度咲きかえれ 叫ぶ叫ぶ君が名 戦場(いくさば)の匂い忘れても 叫ぶ叫ぶ君が名 再会を契り この声が枯れても コメント 追加おつ! -- 名無しさん (2013-11-30 23 20 23) 素晴らしい曲!もっと評価されるべき、、 -- レファン (2014-03-18 14 02 38) この曲めっちゃ好き! -- はるなっちょ (2015-02-26 15 54 15) 歌詞がめちゃくちゃ良いからもっといろんな人に知って欲しい! -- 名無しさん (2016-05-24 21 19 36) 名前 コメント
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Q: 155 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/07/28(土) 13 32 25 ID 7+fiB5/w ポッケ村の村長の声がウザイのは何故ですか A: 157 ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン 2007/07/28(土) 15 27 25 ID wuiOeHYg 155 人によってはあの美声を聞くだけで孕みそうなってしまう方も居られるので あなたの価値観ではウザイだけ ということです 声 村長
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登録日:2010/06/01(火) 22 20 33 更新日:2021/06/18 Fri 01 20 54 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 AXL エロゲー キミの声がきこえる キミ声 ゲーム バカゲー プレミア 愛すべきバカの巣窟 隠れた名作 受験生を――無礼(なめ)るな 2006年12月1日に発売されたアクセル第二作目 通称「キミ声」 よくタイトルを間違えやすい。ひらがなとカタカナと漢字の配置だが。 大学受験に失敗して浪人生活を送る事になった主人公が都会と田舎の二重生活を送る事になり、そんな彼の恋愛を描いた話。 原画家の瀬之本久史の作画が安定してきて、システムが大きく改変されて以降の作品にも受け継がれている。 演出も力が入る様になり、SD画をふんだんに使用する様になった。 基本は個性的過ぎるて逆にウザいと感じる程濃いキャラ達の繰り成す所謂バカゲー 受験・浪人をテーマにしているが、受験生に喧嘩を売っているとしか思えない行動も多く、リアルの受験生が見たらキレるかもしれないとか。 だが、それ以上に特筆するべき所は、個別ルートでも他のヒロインに浮気出来るという特殊な恋愛模様になっている。 大抵はギャグで流されたり後味の悪くならない様になっているが、よくよく考えるとかなり切ない。 また、純愛でも近距離恋愛と遠距離恋愛のどちらかも選べられる。 そのため、ストーリーのボリュームが半端なく、間違いなくアクセル一の長さを誇る。 また、異常なまでにエロに力が入っている。 評価はそれなりに高いが、何故か異様に知名度が低く、本家Wikipediaにもこの項目が出来たのもつい最近。 Like a Butlerの方が先に建てられた程。 現在はAXLが中堅ブランドに落ち着いたという事でそれなりに名が知れたが、結構なプレミアが付いている。 ダウンロード販売もされていたが、現在は終了している。 というか、明らかに前作のトラウマが原因だろ ■メインキャラクター 〇飯塚直也 主人公。 どうしようもないくらいのヘタレ主人公。浮気とかも平気でするし。 そのため、ヒロインに同情したり感情移入するプレーヤーも多い。 〇敷島桜 声:青山ゆかり 都会側のメインヒロイン 直也の中学からの同級生。 非常に頭が良いが、本命に落ちたという理由で同じ予備校に通う浪人生になる。 青山さんのキャラの中では貴重な普通の人。公式ではツンデレだが、それほどツンデレじゃない。 〇南野泉 声:松田理沙 田舎側のメインヒロイン 直也の幼なじみではとこ。旅館「南野屋」の仲居で女将の娘。 マイペースで天然だが、仕事は正確に出来る。誰よりも大人びているヒロイン。 〇飯塚美由紀 声:夏野こおり 直也の義妹。両親と共に世界中を回っていたが、直也の生活を心配して帰国する。大のお兄ちゃん好き。 見た目も中身も某天才ロリ魔法使いに似ているが気にしてはいけない。 ■サブヒロイン ◇都会側 〇久我島美玲 声:まきいづみ 直也の高校時代の同級生で憧れの人。現在は大学生。彼氏がいた。 実は作中一の常識人。 〇桐谷桜花 声:如月美琴 三浪している猛者。人呼んで「銀杏予備校のヌシ」。無駄な事を知っている。 基本は直也達を振り回し、彼らの士気を下げる元凶。二浪させる気らしい。 だが、根は真面目で意外にも空気が読める。 ◇田舎側 〇南野空子 声:楠鈴音 泉の義母で旅館の女将。 直也は泉の婿として、自らの夫として狙っている。 〇日比谷富音 声:茶谷やすら 通称「サマンサ」 旅館の仲居でメイド服に眼鏡ッ子でドジッ娘のオタク。 後半ではよりオタク化する。 ■サブキャラクター ◇都会側 〇稲垣政宗 声:空野太陽 直也の悪友で愛すべきバカその1 触手大好きなオタク 〇酒井健太 声:犬野忠輔 直也の悪友で愛すべきバカその2 頭の中まで筋肉の筋肉担当 授業中も合コンもひたすら筋トレ ◇田舎側 〇日比谷海 声:茶谷やすら 富音の双子の弟で同じ旅館の仲居 都会の人間が嫌い 女装が似合うショタ 〇鏑木志朗 声:紫原遥 直也の幼なじみで「鏑木もやし」の一人息子で次期社長 ガチホモ 〇岩井権十郎 声:保村真 直也の幼なじみで南野家を潰そうと嫌がらせをしている。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
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すべてを終わらせた私に願いなんてない。 けど本当は、もう一度だけ、貴方の声を聞きたい。 私の悲しみの終わり、私の憎しみの果てに。 黒き憎しみの炎の中で、降りしきる苛立たしい五月雨の中で。 今も私は、貴方の声を夢見ている。 * 如何に栄えた都市であろうと、光と闇は表裏一体。 発展と治安は必ずしも比例せず、東京という都市にも一般的に近寄ることを推奨されないエリアは多数存在する。 そんな治安の良くないエリアの付近では、ある一つの噂話だった。 『凄腕の占い師がいるらしい』 『コールドリーディングってやつ? 少し話をしただけでこっちの言いたいことをズバズバ当ててくるの』 『すごい陰鬱そうな女の子がえらく辛辣な物言いをしてくるんだけど、これがまあぐうの音も出ない正論で』 『ムカついて喧嘩売ったやつがいたけど、不思議な力で廃人にされかけたとか何とか』 不思議な和装をした怪しげな少女が、裏通りの奥地で決まった曜日に占い店を出している、という話だ。 店と言っても、路地の脇に簡易テントを張りテーブルを出して座っているだけらしいのだが。 噂話をしているのは主に所謂不良、中には半グレや暴走族に片足突っ込んでいるようなものもいる。 そういった場所に出入りすることに躊躇いのない層から聞こえる話だ。 さしたる広がりではなく、未だごく少数のみが認知している噂話。 一般の人にとっては真偽も定かではないものではあるが……それは、概ね真実であった。 * 雨の降る薄暗い裏通り、汚れたアスファルトと排気が雨と混ざり合う中に、その店はあった。 雨避けの簡素な組み立て屋根の下に、特にそれといった道具も並んでいないテーブルがある。 そしてその奥に座っている、錫杖を携えたまるで疲れ切った老人のような白髪の女がいた。 絶望に彩られた瞳に反し、それは未だ齢20も超えた様子のない少女だった。 横髪の一部に朱色の名残が根ざしているのは、彼女の白髪が生来のものではないことを示している。 極限下のストレス負荷により、本来の色を失った故の白色だった。 大雨の裏路地を通る人は少なく、時折傘を差した会社員が不思議そうに少女を見て、通り過ぎていくばかり。 占い師の少女はぼんやりと、雨を降らせてくる暗き曇天を仰ぎ眺めている。 「こんな雨の日くらい、店を出さなくても良いでしょうに」 それは、占い師の少女の言葉ではなかった。 少女の隣、もう一つ用意されていた空き席に、突然現れたサーヴァントのものだ。 占い師の少女より更に幼い、美しい銀髪をたなびかせた黒いドレスの少女だった。 しかしその口調に幼さはまるでなく、老獪で妖艶な女性のそれだった。 「晴れていようが雨だろうが関係ありませんよ。占い屋は毎週決まった曜日に出しているので」 「こんな薄汚い環境につきあわされる私の身にもなって欲しいのだけれど。帰っていいかしら?」 「すいませんね、なんだか二人いないとしっくりこないもので。昔の相方は、ここにはいませんから」 「生きていた頃ではないのだから、あえて劣悪な環境に身を置くこともないんじゃなくって?」 「美しかった頃に回帰できるほど、綺麗ではないでしょう? 貴方も、私も」 「別に好きで泥を啜っているわけではないでしょう?」 「別に泥が好きなわけではありませんが。私は、こちらのほうが落ち着くので」 「難儀なマスターに当ってしまったものだわ」 「貴方も十分難儀なサーヴァントですよ、キャスター」 二人で屋根の下、雨の音を聞く。 忙しない環境音、やかましい静けさの中で。 この世界に招かれてから、サーヴァントを召喚してから、かつてのように占い屋を出すようになってからもうしばらくたつ。 各地では既に戦いが始まり、脱落したサーヴァントも死亡したマスターもいることだろう。 しかし占い師の少女は、変わらない。 誰と戦うでもなく、こうして目立たない場所で、しかし必ずしも見つからないとはいえない場所で、占い屋を営んでいる。 その事に対しサーヴァントの少女もまた劣悪な環境に対する形式上の文句を言うだけで、異論を挟む様子はなかった。 二人の少女は、見る人が見ればまさに恐ろしい怪物そのものだった。 人外の力を内包し、世界を滅ぼしうる術式を手にし、他者を殺すことへの躊躇もない。 双方ともに混沌・悪のアライメントを持つ、生前は数え切れぬ程の人々を殺戮した悪魔のような少女だ。 しかし、少女たちはただ空を見上げる。 嘗て燃え盛っていた炎は胸の内の種火となり、再び燃え上がらせる理由がなかった。 全ては、終わったことだった。 * ふと、通りを小学生ほどの男の子が通りがかった。 ここの治安のことを知らないのだろうか、長靴で水溜りを踏みしめ、カラフルな傘を回している。 そしてそれは、反対側からやってきたガラの悪い青年とぶつかった。 倒れ込む男の子と、にらみつける青年。 びしょ濡れになり既に泣きそうな男の子は、青年に胸ぐらを掴まれ苦しそうに呻いた。 よくある、悪しき光景だった。 たしかに男の子にも非はあるだろうが、青年は軽くぶつかられただけで何ら被害を受けていない。 ただムカついたから、苛ついたから、特に理由はないがそれっぽい理由をでっち上げて弱いものを虐げる。 全くもって、いつも通りの世界の光景だ。 「あの」 突然背後から声をかけられ、青年は振り返った。 そして、闇のような暗い瞳に見つめられ、後ずさる。 占い師の少女は傘もささず、雨の中通りに出て青年を見ていた。 「別に水をかけられたわけでもないでしょうに。手を上げるつもりですか」 そのおどろおどろしい雰囲気に押されかけたが、それが小さな少女であると見るや青年は苛つきのままに暴言を吐いた。 とっとと消えろ、とか、お前も同じ目に合わせてやろうか、とか、月並みなセリフを聞き流す。 「一過性の苛立ちですら無い。ただ殴りたいから殴る。善悪ですら無い、愚者にもなれない堕落者ですね。 警告します、その手を離して失せなさい、塵屑」 そして、分かりきっていたことだが青年は拳を振りかざした。 占い師の少女はため息を吐き、蔑んだ目でそれを見る。 「では――仕方ありませんね」 そして、瞬間青年は『燃え上がった』。 全身を真っ赤な炎が覆い、皮膚が焼け付き、肺の中の空気が熱されていく。 それをただただ、果てしない痛みとしてだけ青年は認識した。 何が起こってるか分からず、焼けたまま一瞬呆け、そしてようやく痛みを理解する。 「ひっ、火、火、火ィ!? た、たすたす、け、たすけ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」 青年は『燃えたまま』路地を転げ回り、汚い悲鳴を撒き散らしながら奥へと走り去っていく。 走り去ったところでどうなるというのか、身の程を知らなかった青年はやがて、ある程度走ったところで息絶えるだろう。 そのように、占い師の少女は調整した。 「貴方、大丈夫ですか」 そのような恐ろしいことをしでかしたままに、占い師の少女は転んでしまった男の子に手を差し伸べる。 しかし男の子は、まるで怯える様子を見せずその手を取った。 「すっげー、姉ちゃん! 『何もしてない』のに追っ払っちゃった! あいつ、どうしたの?」 「さあ、どうしたんでしょうね。忘れ物でも思い出したんじゃないでしょうか」 男の子には、『燃え上がった』青年の姿など見えていなかった。 ただ突然苦しみだし逃げ出した、そうとしか見えていない。 青年の体が『燃え上がった』のは青年にとってのみの事実であり、男の子にとっての事実ではない。 だから、今目の前でどのようなことが起こったのかも、理解していない。 「それよりも。こんな大雨の中でわざと水溜りに足を突っ込んではしゃぐからこのようなことになるのです。 好奇心旺盛なのは結構ですが、貴方は未だ小さくか弱い。必要でない危険は遠ざけることを心がけなさい」 「うっ……けどさあ」 「けど、ではありません。規則正しい生活、人を傷つけない義、正しいことを成す心を育みなさい。 言い訳を続けたまま成長すれば、良き未来は訪れません。先程のろくでもない男のようになりたくはないでしょう。 貴方はまだ幼い、だからこそ間違った成長を選ばないことです」 「姉ちゃんの言うこと、むずかしいよ」 「今は分からずとも、覚えておいてください」 「うーん、分かった!」 先程何の躊躇いもなく青年に命を奪う幻術を仕掛けておきながら、男の子を見つめる占い師の少女の表情は柔らかいものだった。 暗い面持ちの中にも、微かに愛らしい少女であった時代が存在したことを感じさせる微笑みだった。 男の子の手を引き立ち上がらせると、ハンカチで汚れと水を拭いていく。 「いてっ、あー、擦り傷……」 「我慢しなさい、と言いたいところですが」 痛みに顔をしかめる男の子の手を、軽く握りしめる。 男の子はまるで明かりを直視したようなちかちかとした何かを感じた。 なにか温かいものが体を満たしたと思えば、気付けば傷の痛みはさっぱり消えていた。 「痛みをなくす『おまじない』です。帰ったら消毒するように」 「すげー! ありがと、占いの姉ちゃん!」 男の子は占い師の少女に感謝すると、路地を駆け出そうとし……思い出すように振り返って、静かに歩き出した。 それを見送ると、占い師の少女は占い屋の席に戻った。 * 水浸しのまま座ろうとすると、頭にタオルを被せられる。 一部始終を眺めていたキャスターが、皮肉げにしていた。 「お優しいことね、マスター」 「そう見えますか、キャスター」 「貴方からすれば厳しいのでしょうけど、私からすれば十分優しいわよ」 「私は、できることをしているだけです。あれが、今の私にできるせいぜいのことですから」 「謙遜もそこまで行くと嫌味ね」 「事実ですが。実際、今の私は貴方の『虚無の魔石』の再現にマスターとして8割の力を常に消費しています。 できることといえばあの程度の幻術と、おまじないくらいのものです」 「別に再現して欲しいと頼んだ覚えはないのだけれどね」 「別に再現したくて再現しているわけではないんですけれどね」 互いに呆れたように視線を合わせ、溜息を吐く。 数奇な縁、数奇な共通点、それ故に不完全なれど復活してしまった力。 このような采配を行う聖杯とやらは全くもって底意地の悪い存在なのだろうと、二人は確信していた。 「サーヴァントとしては力があるに越したことはないわ。そういう意味では有り難い。 けれど、せっかく彼が。『ヴェラード』がその手で砕いてくれた忌々しき不死の根源を、不完全とはいえ再び手にしてしまうとはね」 「男女の惚れた腫れたはよく分かりませんが、まあ、なんかすいません。嫌なら他のマスターを探しに行けばいいかと。 別に貴方であれば、私を殺しても構いませんよ」 「嫌よ。忌々しいけど、貴方以上に気が合うマスターなんてきっといないもの。私も貴方も、どっちも『やる気なんて無い』でしょ?」 「そうですね」 再び、ぼんやり路地と雨模様を見つめ始める。 抑揚はなく、意味も特にない、ただなんとなくの共感だけがそこにあるやり取り。 五月雨には程遠い、真冬の雨模様。 けれどこんな雨の日はいつだって、元々悪い気分が更に悪くなる。 まあ、気分が悪いからなんだという話だが。 * 「ところで、惚れた腫れたの話だけど」 「はあ、まだ何か?」 「よく分かりませんは、それは嘘よねえ?」 「何ですか、嘘なんて言いませんが。恋愛沙汰なんてとんと縁がありませんよ」 鬱陶しげに占い師の少女が否定すると、キャスターはにんまりと悪どく笑った。 「――『騎士を志望します! 姫、あなたへの愛を誓いましょう!』」 「ぶッ、ごほッ」 突然放たれたその台詞に、占い師の少女は喉をつまらせた。 それは、古い古い思い出の言葉。 少女にとって何よりも大切な、幼馴染との記憶。 このキャスターには知られているはずのないことだった。 「可愛い子じゃない。死ぬことも恐れず、姫を守る健気な騎士様ね」 「貴方……まさか私に『幻燈結界』を使っていませんよね……?」 「そんな野暮はしないわ。ただ見えてしまうだけよ。私と貴方なら尚更このと。貴方だってそうでしょう? 言いっこなしよ」 「…………」 マスターとサーヴァントは、ラインで繋がる。 そしてこの聖杯戦争では聖遺物の触媒は一切用いられず、縁のみが頼りとされる。 召喚されるサーヴァントは必然何かしらの要素でマスターに近しく、それが善であれ悪であれ、本意であれ不本意であれ、ラインは強固となる。 そして強固なラインを通じ、無意識の内に互いの存在を把握する、そう、夢という形で。 そして、この二人は、そう、あまりにも『共通点』が多かった。 「偽りの正義によって故郷を蹂躙された貴方。世界に絶望した私。それを許せなかった貴方。この偽りの世の終わりを願った私。 炎と幻術を得意とする貴方。同志とともに忌々しき信徒共と争った私。死を覚悟し最後の戦いを起こした貴方。そして、終りを迎えた『私達』」 「私は、貴方ほど清々しく死んだわけではありませんがね」 「そんな貴方がマスターであるからこそ、私は通常の霊基すら若干逸脱し、『虚無の魔石』をスキルとしてだけど取り戻してしまった」 キャスターは己の下腹部を撫でる。 そこに、その中に、何かがあると言いたげに。 「こんなもの、『不死』なんて、得るものじゃないわ。けれど、これのおかげで私はあの人に、ヴェラードに出会えたの」 「…………」 「貴方はどう? 幼馴染に『不死』を与えてしまったことを、後悔してる?」 「……しているに、決まってるじゃないですか」 幼かった頃の過ち。 内乱に巻き込まれ重傷を負い、痛みを訴える親友に一心不乱に施した『おまじない』。 痛くない、痛くない、痛くない、痛くない、痛くない、ただそれだけを込めたおまじない。 ただただ無意識で、生きていて欲しいと願った幼い故の無垢で残酷な意思がもたらした、取り返しのつかない『呪い』。 あの日から、彼女は。そして、それを自分はずっと知らないまま。 「もしあんなことをしなければと思わなかった日なんて、ありませんよ」 「けれど、願わないのでしょう?」 「願いませんよ。私の罪は、私だけのものではないのですから」 「そうね、罪深いことだわ。『良き死』を迎えられないことは。けれどそれを含めて、人生というもの。私の800年も、貴方の可愛い幼馴染の苦悩も、また」 親友は、いつの間にか姿を消していた。 何も知らない私に、私のせいであんな体になってしまったことを知られないために。 そしてあの子は帰ってきて、私を連れ出して、そして。 「愛していた? それとも、憎んでいた?」 「どちらも。きっと、彼女もそうです」 愛憎はまさに紙一重、愛する故に憎み、憎む故に愛する。 美しいものを見た(おぞましいものを見た)。 優しい人達がいた(残酷な人たちがいた)。 世界はどこまでも広かった(世界はどこまでも間違っていた)。 何も知らぬ小娘に親友が命を擲ってまでそれを教えてくれたのは、きっと愛情であり、同時に復讐だったのだ。 「そうね。あれほど愛したものはいない。同時に、あれほど憎んだものはいない。 愛する故に期待し、期待する故に裏切られる。けれど……けれど最後には、願いが叶ったわ」 「ええ。最後に聞いた声が愛する人の声である以上のことは、ありません」 死の際に、彼女らの願いは既にかなっている。 故に、聖杯に願うことは、ない。 ここにあるのは嘗て存在した世を乱す残酷な悪魔、その信念の形骸でしかない。 世界に絶望し、悪を成し、世界に殺された。 例え未熟だらけの過程に後悔があろうとも、自ら選び取った結末に、後悔はない。 * 「『不憎』。憎しみが過ぎれば、心が押し潰されてしまう。絶望し、死を希ったこともあります。 けれど、私はその果てに新たな家を、家族を得たのです。こんな私が家族のために戦い、共に死ぬことができた。 その結末の、何を後悔することがあるでしょうか。私はもう『ボタン』ではない。ヴェーダ十戒衆の五番、『フューリー』なのですから。 貴方が『リゼット』ではなく、『リーゼロッテ』であるように」 「大したものね。私は憎まないことなんてできないわ。ただ、ただそれ以上に、ヴェラードが私を終わらせてくれた。 そのことが嬉しい。これ以上のことなんて無いし、これ以下のことなんてどうだっていいくらいにね。 けれど、ならば、これからどうするのかしら? 私のマスターは」 闇に濡れた4つの瞳。 この世の絶望という絶望を知り、悪逆を為した2人の稀人。 しかし今はただ静かに、静かに、雨音の中にいる。 今は、静けさだけがどこまでも心地よい。例え、五月蝿い雨音の中でも。 「まあ、一度死んだからってまた殺されてやるつもりはないので。私はこの異世界にて再び『正義』を問いしょう。 正しく人を救う信念、組織、社会の在り方を問い続けます。偽りの正義は、破壊されるべきですから」 「殊勝なこと。まあ私は正直どうだっていいけれど、せめてお気に入りの貴方に付き合ってあげましょう。当分は占い屋の相方のようだけど。 ああ、それと、もう1ついいかしら」 「はい、なんでしょう」 細やかな情動、冗談の掛け合い。 言葉は曖昧に、心の奥底で通じ合うことは、特別な絆だった。 フューリーの陰鬱な表情を、リーゼロッテはゆるりと微笑みながら眺めて、言う。 「もし仮に願うとしたら、何を願う?」 「……それは、愚問というものでは?」 「そうねえ、じゃあ一緒に言ってみましょうか」 それは、決まりきったお約束。 勝手知ったる言葉遊び、解答欄を覗いた答え。 それでも、視線と口を合わせたそれは何だか可笑しくて。 つられて、フューリーも小さく笑みを零した。 「「――もう一度だけ、彼女(彼)の声を聞きたい」」 【クラス】 キャスター 【真名】 リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes 【パラメーター】 筋力C 耐久E 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具EX 【属性】 混沌・悪 【クラススキル】 陣地作成:A 魔術師として自らに有利な陣地を作成可能。 Aランクとなると「工房」を上回る「神殿」を構築する事ができる。 道具作成:A 魔力を帯びた器具を作成可能。 リーゼロッテは古今東西の大抵の魔術道具を作成することができる。 【保有スキル】 信仰の加護(異):A 一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。 ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。 リーゼロッテはかつて敬虔なカタリ派の教徒であり、世界に絶望し神を憎んで尚今も信仰を貫いている。 彼女が一度は世界を滅ぼそうとしたのも、愛憎のみだけではなくカタリの教義に則ったものだった。 虚無の魔石:A 『翠玉碑(エメラルド・タブレット)』の大いなる欠片であり、1000年間闇精霊を吸収し漆黒の輝きを帯びた不滅の象徴。 本来はEXランクの宝具かつ通常霊基では到底再現不可能なものであるのだが、マスターとの最高峰の相性によってスキルとして付属している。 その効果である『完全なる不死性』と『無限の魔力』が劣化再現されている。 リーゼロッテは必要な魔力を消費することにより瞬時に失った肉体を再生可能とし、また自身は存在するだけで魔力を生成する。 劣化して尚魔術世界においては竜種にも等しい人外性を誇るが、このスキルはフューリーがマスターである時以外は機能しない。 バビロンの魔女:EX 炎の魔女、ルクスリアの魔女、大淫婦とも呼ばれし最も邪悪なる魔女、その忌み名。 欧州最強最古の魔女として800年もの間魔術世界に君臨し、破壊と混乱を振り撒いた逸話の具現。 その魔術は暗黒の太陽を創造し、その手管は国家を崩壊させ戦火を拡大させる。 【宝具】 『幻燈結界(ファンタズマゴリア)』 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人 記憶や恐怖といった深層意識に働きかけて幻影を見せる暗黒魔術。 分類としては『固有結界』に該当する、幻影魔術の領分を完全に逸脱した異世界創造。特殊な条件を満たせば平行世界への干渉すら可能とする。 結界に取り込んだ対象の五感と精神を支配し、自身又は他者の心象風景から幻影の素材を蒐集しそれを投影具現化する。 具現化された風景や物質は本質的には幻影なのだが、精神支配を受けている状況下においてそれは実物に等しい。 他者のトラウマを刺激し精神崩壊を起こしたり、実体化した幻影による直接攻撃で対象を殺害する。 情が深いほど、強い信念を持っているほど、過酷の過去を持つほど、この幻術は心に突き刺さる。 『奈落墜とし(ケェス・ビュトス)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:惑星全土 最大補足:全人類 世界全土を対象に発動する人類鏖殺の大儀式魔術。 光精霊で構築された現世に暗黒の門を開くことで全ての光精霊を闇精霊に反転させることにより、全ての生物を死滅させる。 かつてリーゼロッテが行使しようとした世界を滅ぼす大魔術だが、現在のリーゼロッテはこの宝具を行使することはない。 人類鏖殺の理想は、かつてそれを語った愛する男によって否定された。 しかし理論と術式は確立されており、今でも必要な魔力と最適な霊脈があれば行使自体は可能ではある。 【weapon】 暗黒魔術を中心とした魔術攻撃。 また体術においても超一流であり人外の膂力を誇る。 【人物背景】 嘗てリゼット・ヴェルトールという少女であったもの。 南フランス、オクシタニアの城塞都市ベゼルスにて敬虔なカタリ派の民であった少女は十字軍に蹂躙され、世界を、神を呪った。 その憎しみを見初めた魔術師によって『虚無の魔石』を与えられ、不老不死の魔女と化した。 十字軍への憎しみと、『良き死』を迎えることができなくなった絶望から、魔術を極め世界に混乱を振り撒きながらも自身が死ぬ方法を探し続ける。 そして自身と同じく世界に絶望する男と出会い、愛し、『人類鏖殺』の理想を掲げ『奈落堕とし』の術式を編み出し、それを実行しようとした。 しかし、その理想は他でもない愛する者の魂によって否定され、彼女は彼から齎された死を受け入れた。 いつか不死のお前に死を与えてみせる、その約束が果たされたことにより、魔女は愛する者の腕の中で息絶えた。 【サーヴァントとしての願い】 ない。人類鏖殺の悲願は既に失われた。 今は自身を召喚せしめるに至った『縁』に免じ、召喚者の道行きに付き合う。 【マスター】 フューリー@誰ガ為のアルケミスト 【マスターとしての願い】 ない。ただこの世界の『正義』の行く末を問う。偽りの正義があらば、破壊する。 ――本当は、『彼女』の声が聞きたい。 【能力・技能】 呪砲術。火の砲撃を得意とする。 幻術。視覚、聴覚、触覚、極めれば痛覚をも支配し、存在しないダメージを敵に与える。 フューリーは呪術師としての天賦の才に加えヴェーダより齎された異次元の力を得た。 今や彼女の呪術は街一つを破壊し尽くしたと錯覚させたり一万の軍勢を顕現させる程の幻術を扱える。 しかし現在フューリーの力の8割はリーゼロッテのスキル『虚無の魔石』の再現に費やしている。 また彼女はヴェーダの力を得る代償として『忘却』を失っており、あらゆる過去を忘れることができず、あらゆる悲劇を鮮明に記憶している。 【人物背景】 誰ガ為のアルケミスト期間限定イベント 十戒衆アルゾシュプラーハ-うるさいよ五月雨-を参照。 嘗てボタンという少女であったもの。 ワダツミという島国で生まれ育った彼女は外の大陸で騎士となっていた幼馴染のイカサに連れられ遊学の旅に出た。 絵物語でしか知らなかった立派な騎士、大陸の優しい人々、美しい景色。全ての人々が手を取り合えば、世界はきっと平和になると彼女は信じていた。 しかし大陸のグリードダイクという国家がワダツミが内乱で疲弊しきった隙きを狙い『錬金術の乱用』を大義名分にワダツミに宣戦布告。 『悪しきワダツミの巫女を赦すな』と標榜し、同じくワダツミの巫女であるボタンが錬金術を修めていることは大陸中に知れ渡った。 そして、地獄が始まった。立派だった騎士、優しかった人々、美しかった景色は全て、全てが反転した。 手を取り合えたはずの人々からは恐怖と憎しみの視線を向けられ、騎士からは剣を向けられ、ボタンは絶望のままイカサと共に逃げた。 逃げて、逃げて、故郷へと戻って、そして、大切な人たちは皆死んだ。 グリードダイクの偽りの大義、所詮疲弊した国土を容易く切り取るためだけのただの言葉を、それに踊らされた世界を、ボタンは憎んだ。 そしてそんな偽りの正義を破壊すべく『ヴェーダ十戒衆』へと加入。五番目の席に座り、名をフューリーと改めた。 彼女は『不憎』の戒律を掲げ、過ぎた憎しみを抱えることはない。しかし偽りの正義を掲げる世界を許すことはない。 【方針】 主従ともにとんでもなくやる気がない。しかし死ねと言われて死ぬつもりもないし聖杯は気に食わないし敵を殺すことには一切躊躇いがない。 この別世界においてフューリーは静かに占い屋を営みつつも、嘗てのように正義の在り処を問い続ける。 そんなフューリーをリーゼロッテは見つめ、隣りにあり続ける。 【備考】 モチベーションに著しく欠けるものの極めて強力で危険な陣営。 フューリーはその力の8割をリーゼロッテの規格外のスキルの維持に費やしているため戦闘力に大幅な制限が加わっている。 その代わりリーゼロッテに付与された『虚無の魔石』はただでさえ強力なリーゼロッテの力を更に増幅させている。 積極的に襲いかかることこそ無いが、野生のFOEと呼ぶべき存在となる。 リーゼロッテもまたやる気はないが、なにかするとすればそれはフューリーのために動く以外ありえないくらいには彼女を気に入っている。
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0 強い力。 使う人の気持ち一つで…… 救い、滅び。どちらにでもなる。 1◆ ――――その覚醒には誰もが驚いていることを、ユイ/イニス自身が感じていた。 体の奥底から力が溢れ出ていた。 碑文は世界そのものを大きく変える可能性を持つほどの力だ。それこそ、インターネットだけでなく現実世界にも影響を与えた事例もある。 ならば、この力さえあれば彼らと戦うことができた。 (これが……『惑乱の蜃気楼』イニス。幻影を自由自在に操り、そして高速移動で敵を攪乱することが可能……) ユイの脳内にイニスの膨大なデータが流れ込み、全てを瞬時に理解した。 SAOのカーディナルシステムにより誕生したトップダウン型AIである彼女なら、膨大な情報処理が可能となっている。 だから、この力を振るった。 (絶対に、パパ達を守ります!) ただ、大切なみんなを守りたいという気持ちを胸に、ユイ/イニスは飛び上がる。 天から見下ろす天使の如く神々しさを醸しながら、彼女は両腕を振るって無数の光弾を放ち、エネミー達を葬った。散弾銃を超える速度を誇る光弾を、エネミー達は対抗できない。 「あなたなんかに、パパを殺させませんッ!」 そして、キリトの命を奪おうとしたフォルテにも狙いを定めて、ユイ/イニスにも光弾を放つ。 フォルテは驚愕で目を見開いていたが、我に返ったかのように翼を羽ばたかせながら跳躍した。彼は不敵な笑みを浮かべながら、ユイ/イニスを目がけてバスターを放つ。 「望むところだ!」 そうしてバスターから放たれた光弾が迫りくるが、ユイ/イニスの巨体とプロテクトには意味を成さない。 ユイ/イニスは反撃として、巨木すらも凌駕する刃を振り降ろした。しかしフォルテ自身は微塵の動揺も見せず、高速スピードで回避する。その勢いを保ったまま、瞬時にユイ/イニスの目前にまで迫って。 「まずは試しだ……アースブレイカーを受けろッ!」 圧縮された高濃度のエネルギーを、顔面に目がけて解放した。 凄まじい爆音と共に炸裂したエネルギーは、並のアバターなら瞬時にデリートできるほどの威力を誇るだろう。しかし、今のユイ/イニスではほんの僅か後退させるだけに過ぎない。 「チッ、やはりこれだけでは通用しないか」 無論、システムを超越した憑神を簡単に倒せるとは、フォルテ自身も考えていなかったようだ。 今のフォルテはゴスペルを従えているから、碑文とAIDAの特性について把握していると考えるべき。そして、ユイ/イニスと同様に何らかの碑文に覚醒している可能性もあった。 しかしそんなことは関係ない。この場でフォルテを倒すため、もう片方の刃をフォルテに叩きつけた。 「ぐうっ…………!」 ユイ/イニスの巨刃を受けたフォルテは呻き声と共に吹き飛ばされる。 質量に圧倒的な差があるのだから、いかにフォルテでも防ぐことはできない。フォルテのダークネスオーラも、システムを超越する憑神の前では効果がなかった。 「さあ、まだです! まだ、私は――――!」 『――――――――――ッ!』 フォルテに追撃しようとしたユイ/イニスの耳に獰猛な叫びが響く。 まるで主の危機を駆けつけるように、あのゴスペルが突貫を仕掛けてくるのを見た。ユイ/イニスは反射的に弾丸を縦横無尽に放つものの、ゴスペルはその全てを回避する。 そしてユイ/イニスを目がけて衝撃波を放った。 『――――――――――ッ!』 衝撃波/ダイナウェーブの速度と範囲から、高い威力を誇ると瞬時に察知する。直撃すればユイ/イニスだろうと、プロテクトにダメージは避けられない。 だが、ユイ/イニスの機動力さえあれば、回避は容易だった。その勢いを保ったまま、ゴスペルの横に回り込んで弾丸を発射し、巨体を吹き飛ばす。 『――――――――――ッ!』 (やった……あのゴスペルにダメージを与えています……!) ゴスペルの悲鳴を耳にして、ユイ/イニスは確かな手ごたえを感じる。 これまでは後方支援しかできず、パパやママたちを守ることができなかった自分だけど、ようやく戦えるようになった。あのゴスペルにだって、ダメージを与えている。 もちろん、これだけで倒せる訳がないので、ゴスペルはすぐに立ち上がってこちらを睨んできた。耳障りな叫びが聞こえてくるけど構わない。 そのまま衝撃波を3連続で発射してくるのを見て、天に向かって羽ばたいた。衝撃波の特性に気付いた瞬間、ユイ/イニスはゴスペルが大きく口を開けているのを見る。 口内ではエネルギーが収束されていき、ユイ/イニスを目がけて放たれた。衝撃波……ゴスペルショックパワーは世界に亀裂を刻みながら、ユイ/イニスを追跡する。 (ホーミング機能を持つ衝撃波? ですが、イニスの速度と能力なら問題ありません!) 高威力の衝撃波が迫りくるが、ユイ/イニスは決して狼狽しない。 その直後、ユイ/イニスの姿は消滅し、標的を失ったゴスペルショックパワーは世界の果てに去ってしまった。敵が消滅したことに驚愕するゴスペルの背後に、ユイ/イニスが現れてカウンターを放つ。 「反逆の陽炎ッ!」 ユイ/イニスは叫びと共に巨大な双剣を振るい、ゴスペルを吹き飛ばした。 ゴスペル自身のパワーは危険の領域に入るため、正面から戦うことは得策ではない。故に、ユイはイニスの特性を活かして遠距離からの攻撃で牽制しながら、カウンターでゴスペルにダメージを与える戦法を選んだ。 『――――――――――ッ!』 しかし、ゴスペルは倒れず、むしろユイ/イニスに向ける殺意がより濃厚になっている。 その叫びを耳にして、ユイは息を呑むが決して怯まない。ゴスペルが強敵であることは把握していたし、またパパ達はこれまで何度も危険な敵と戦い続けてきた。 だから今度は娘である自分が戦わないといけない。キリトの娘である誇りを胸にしながら、ユイ/イニスは真っすぐにゴスペルを睨んでいた。 「さあ、どうしたのですか? 私はここにいますよ!」 だからゴスペルを挑発しながら、双剣を構える。黒の剣士と称された父キリトの構えを自分なりに真似しながら。 AIDAの弱点はデータドレインだが、まずはプロテクトを破壊しなければいけない。ユイ/イニスは高速移動をしながら光弾を放つが、ゴスペルが口から放つ衝撃波によって相殺される。 (このままでは、同じことの繰り返しになります! 何か、ゴスペルの弱点さえわかれば……!) 言葉とは裏腹にユイ/イニスの中で焦りが生じた。 イニスが生み出す幻影を活かせばゴスペルの攻撃を回避することができるが、そこからの反撃は決定打にならない。イニス自体の火力と耐久力は他の憑神に比べて劣っており、どうしてもゴスペルの方が優位だった。 しかし、ユイは自分の特性を活かしながら攻撃を避けて、反撃を続ける。ゴスペルの一撃を受けたら致命傷に繋がるが、パパ達のためにも退けない。 「――――戻れ、ゴスペルッ!」 そして、ゴスペルを咎める叫びが世界に響いた。 ユイ/イニスとゴスペルが同時に振り向いた先では、あのフォルテが獰猛な笑みを浮かべながら漆黒の翼を羽ばたかせていた。先程のダメージなど気にも留めず、戦意を滾らせている。 ユイ/イニスがフォルテを睨む一方、ゴスペルはフォルテの元へ走る。 ゴスペルの足音は世界を震撼させていき、フォルテの全身から禍々しい深紅のオーラが黒泡と共に放たれた。そしてフォルテとゴスペルは融合し、圧倒的な闇の波動が爆音と共に拡散される。 (これは……フォルテとゴスペルが一体化したことで、情報密度が爆発的に向上しているのですか!?) 視界が濃厚な闇に飲み込まれながらも、ユイ/イニスは冷静に解析していた。 月海原学園にてスミスに感染したAIDAに立ち向かうため、カイトが 蒼炎の守護神(Azure Flame God) に覚醒している。蒼炎の守護神のように、フォルテもまた真の姿を見せようとしているのか。 ユイ/イニスが警戒する中、フォルテとゴスペルを飲み込んでいた膨大な闇が炸裂し、圧倒的な巨体を誇るAIDA Gospel が姿を現す。先程、周囲を暴れまわっていたゴスペルと異なり、 Gospel の体躯はユイ/イニスと同等かそれ以上だった。 「ただのザコかと思っていたが、どうやら違ったようだな! ちょうどいい! この俺がキサマの碑文も喰らってやろう!」 フォルテの哄笑が Gospel の大きく開かれた口より発せられる。恐らく、フォルテと一体化した時点で Gospel の意識は残っていない。 しかし、ユイ/イニスには関係なかった。彼が全力を出すなら、それを打ち破ってこそフォルテのプライドも破壊することができる。 「望むところです! 私はパパを傷付けて、ユウキさん達の命を奪ったフォルテを許しませんし……ママ達の命を奪ったオーヴァンだって許すつもりはありません! ここで、この私が二人もろとも葬ってみせます!」 真の力を発揮したフォルテを前にしてもユイ/イニスは微塵も臆すことなく、それどころか煽ってすらいた。 何故なら、自らの中から力が湧き水のように溢れていたからだ。イニスの碑文と適合したことで、この力が増幅されたのかもしれない。 力を得て、ゴスペルとも戦えることを実感し、フォルテやオーヴァンを倒せるという希望を胸に抱いていた。 「……ユイ、よすんだ! 今のフォルテはお前一人で戦えるような相手じゃない!」 そんな中、眼下から叫んでくる父の姿が見える。 キリトは心配そうな表情でユイ/イニスを見上げていた。娘の身を案じてくれているけど、今ばかりは父の言うことを聞けない。 現実の娘のように、たまには親に反抗したかった。 「大丈夫です、パパ! 私なら、みんなを守ることができます!」 「待ってくれユイ! ユイィィィィィィィィィィッ!」 パパの呼ぶ声を無視して、私はフォルテ/ Gospel と睨み合う。 子どもの反抗期で親は悲しむ話は聞いたことがあるけど、改めて実感する。でも、今はパパのためにワガママを貫き通したかった。 この気持ちに応えて、イニスの力がどんどん増幅されていけばフォルテやオーヴァンを倒すこともできるのだから。 ユイは気付かない。 碑文に覚醒し、力を振るったことで暴走状態になりつつあることを。 かつてハセヲは『死の恐怖』スケィスの碑文に覚醒した時、志乃を奪った三爪痕の復讐から力に溺れていた。ハセヲの心の闇は増幅し、己の感情に任せて碑文を使い続けてしまい、暴走状態になってクーン/メイガスを嬲った過去がある。 同様に、ユイもイニスの力を振るってエネミー達を撃破し、フォルテとゴスペルにダメージを与えたことで慢心した。そしてフォルテやオーヴァンに対する復讐が果たせると確信して、これまで溜まっていた感情が昂ってしまう。 普段のユイならば、冷静な判断を導いて自らが戦おうとしない。しかし、キリト達を守れるという自負が、次第にフォルテとオーヴァンの復讐にすり替わってしまい、その闇に碑文が反応した。 結果、イニスの力が増幅されていくと同時に、ユイ自身も碑文に飲み込まれようとしていた。 2◆◆ 「これは、厄介なことになったな……!」 そんなユイ/イニスの異常に気付くことができた人間はたった一人。 『再誕』コルベニクの碑文使いにして、真の三爪痕となって『The World』で暗躍し続けたオーヴァンだけだった。 ユイの碑文覚醒は流石のオーヴァンも想定外であり、また動揺している。何故なら、目的であるユイ自身が碑文の力で暴走しては、いずれ自滅する危険があった。 ユイは自分達に対する憎しみを抱いており、その心の闇がイニスに反応している。それ自体は構わないが、ユイのアバターが破壊されてはミッション自体が破綻する。フォルテも闘争心を剥き出しにしているため、力を制御せずにユイを破壊する危険があった。 例え碑文に覚醒したユイであっても、今のフォルテと戦わせる訳にはいかない。暴走の末にフォルテと相討ちになる可能性があり、または戦闘でエリア崩壊が進んでユイを巻き込む恐れもある。 「……どうやら、俺が出向かなければいけないようだ」 不本意だが、今はコルベニクの力でユイ/イニスを止めなければいけない。 八咫の設立したG.U.の真似事をするとは、何の因果だろうか? そう自嘲しながら一歩前に踏み出した瞬間、道を阻むように漆黒のアバターが現れる。 「待て、オーヴァン……! まだ、私との戦いは終わっていないぞ……!」 息も絶え絶えに、アバターをよろめかせながらも、ブラック・ロータスは構えていた。 彼女の殺意は衰えることを知らず、ダイヤの如くバイザーは紅い輝きを放っている。きっと、緑衣のアーチャーとクソアイアンを殺されたことで、怒りを燃やしているはずだ。 ロータスにも興味はあるが、今となっては優先順位が低い。シルバー・クロウとスカーレット・レインの死を利用して、ロータスの怒りを引き出すことで心意について探ろうとした。いずれ、GMと戦う時が訪れるのだから、心意の特性を知って損はない。 だが、今は最優先はユイの確保だ。ロータスも利用価値はあるが、これ以上は邪魔になる可能性がある。 出る杭は早急に叩かなければいけない。 「いいや、君はもう終わりだ。 真実を見せてあげよう――――」 そしてオーヴァンは疾走する。 シルバー・クロウとスカーレット・レインが辿り着いた真実に、ブラック・ロータスもまた辿り着こうとしていた―――― ――――決着はほんの一瞬だった。 ロータスが刃を振るうが、オーヴァンが目前にまで迫り、次の瞬間にはこのアバターを通り過ぎたように見えた。 驚愕する暇もなく、全身に違和感が駆け巡る。しかし、一瞬で稲妻が迸るような衝撃と激痛に変わってしまった。 「――――があああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 そして刻まれるのは《異形の聖痕》。オーヴァンの左肩に宿る漆黒の爪によって、ロータスのボディに無残な傷跡が刻まれてしまい、絶叫する。 シルバー・クロウとスカーレット・レインが味わった苦痛が、こうしてブラック・ロータスにも襲いかかったのだ。 元より、満身創痍だった彼女に抵抗することはできない。激痛と爪痕から放たれる赤い輝きによって、ロータスの意識は掻き乱されていった。 「黒雪姫えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」 そんなロータスを案じる叫びによって、ほんの少しだけ覚醒する。 《異形の聖痕》を刻まれて力なく倒れていくロータスは、自らの痛みがほんの少しだけ和らいで、漆黒のアバターが誰かに抱きかかえられるのを感じた。 「大丈夫か!? 今、治癒の雨を使ったからな!」 「…………ぅ、あぁ………………っ……」 ジローが狼狽した表情で叫ぶけど、ロータスの意識は痛みで朦朧とするせいで返事ができない。 《異形の聖痕》をまともに受ければどんなプレイヤーでも致命傷は避けられず、ブラック・ロータスもまたデリートされるはずだった。しかしHPが0になる前に、ジローが咄嗟に治癒の雨を使ったことでほんの数%だけHPが残されている。 もっとも、まともに戦うことなどできないが。 「フッ。仲間に助けられてよかったじゃないか」 起き上がるどころか、言葉すらも紡ぐことができないロータスを見下ろす男がいる。 さも滑稽なものを相手にするように、オーヴァンは笑っていた。しかし、すぐに背を向けてこの場から去っていく。 「ま、待て…………オーヴァ……ン…………ッ! わ……た…………し、は…………ッ!」 「シルバー・クロウ達の仇も取れないまま、無様に朽ちていくといい。君はしょせん、ただの操り人形に過ぎなかったのさ。 塵にも劣る、君の感情など興味はない。俺にとっては無意味だからな」 冷たい宣言によって、ロータスの息は止まる。 この怒りと憎しみに興味を向けられず、むしろ初めから存在しなかったかのように言い放っていた。 それは違うと叫びたい。この手でオーヴァンを八つ裂きにし、己の罪を認めさせて無様に許しを請わせ、その果てに首を撥ねてやりたかった。 けれど、オーヴァンは去っていく。腕も伸ばそうとするどころか、微塵も動かない。ジローが自分のことを呼ぶ声も、どこかに消えてしまった。 (ち、違う…………私の思い出は無意味なんかじゃない…………! 私は、ハルユキ君のおかげで立ち上がることができた……! ハルユキ君がいてくれたから、私も彼のように飛びたいと願ったんだ! だから、この気持ちは私にとっての宝物なんだ! ハルユキ君が、いてくれたから……!) そして、オーヴァンの背中がすぐに見えなくなるが、それでも立ち上がろうと力を込める。 何もできなかった。ハルユキ君の仇を取るどころか、ロビンフッドとアイアンまでも死なせてしまい、そして自分は完膚なきまで叩きのめされてしまう。 だけど、戦わないといけない。自分の全てが否定されようとも、ハルユキ君達の無念を晴らすと決めたのだから、絶対に立つべきだった。 (彼は……ハルユキ君は……私を何度も助けてくれた……! 彼は私の、誇りなんだ…………だってハルユキ君は、私のことを……何度も助けて、くれたんだ…………! 一人じゃ、何もできなかった私に……空を飛ぶ勇気を、くれたんだ…………!) 今はもういない有田春雪から何度も助けてもらった。 銀色の翼を羽ばたかせながら、加速世界の新しい希望になり、一度全てを失った黒雪姫にも。ハルユキ君が幾多の困難を乗り越えてくれたおかげで、私も力と勇気を与えられた。 そんなハルユキ君がいたからブラック・ロータスは黒の王として復活し、そして多くのバーストリンカーを導けている。 (ハルユキ君は、とっても強い……! 強かったから、私だって彼のように強くあろうと、頑張れた……! それにハルユキ君からは、たくさんの思い出を貰った……楽しかったことや面白かったこと、いっぱい教えてもらった……! そうだろう、ハルユキ君? 君と過ごした時間や、君がくれた思い出は私にとって……大切な宝物なんだ!) 雪の中に取り残されてマッチを灯す少女のように、黒雪姫は懐かしい幻を見つめていた。 ハルユキ君が見せてくれた優しくて暖かい笑顔を見て、胸がときめく自分。他の少女に鼻の下を伸ばすハルユキ君を見て、嫉妬する自分。加速世界に立ちはだかる数多の敵をハルユキ君と力を合わせて、充実感を抱いた自分。 一つ一つの思い出がかけがえのない宝物で、まるで宝石箱のように輝いていた。 けれど、ハルユキ君との時間は終わってしまった。 (会いたいよ……! また、ハルユキ君と会って話がしたいよ…………! 私は強くなるから、ハルユキ君の隣にいさせてくれ……! 強くなるためにも、キミの声を聞かせてくれ! キミの声が聞きたい……! でも、キミの声が聞こえないんだ……ハルユキ君…………!) ハルユキ君のために戦えなかった無力感と共に、バイザーの下で涙が澎湃と溢れ出す。 大事な仲間を守る意思も、このデスゲームを仕組んだ主催者を倒す決意も、オーヴァンに対する禍々しい憎悪も消えてしまい、ただの無力な少女に成り下がっている。 せめて、最後に残ったハルユキ君との思い出だけでも抱えたかったが、それすらも遠くに消えてしまう。だから、彼の名前を呼ぶしかなかった。 しかしハルユキとの思い出に縋ろうとした瞬間、彼の姿が徐々に遠ざかっていく。 (嫌だ、嫌だよハルユキ君…………! 私を一人にしないでくれ…………! 私にはハルユキ君が必要なんだ! ハルユキ君がいなければ、これから先の人生で何が起きても全く意味がない…………! ハルユキ君! キミは私の誇りだから、私の声に応えてくれよ…………! ハルユキ君…………!) 助けを求める少女の声に答えてくれる者は誰もいない。 そうして、自分が一人ぼっちになってしまったことを悟った彼女は、意識を手放した。 かつて、自らの過去を暴かれた時と同等か、あるいは遥かに凌駕する程の絶望と無力感によってブラック・ロータス/黒雪姫の全てが零(ゼロ)になってしまう。全てを失った彼女は零化現象に陥ってしまい、何もできない。 (助けてくれ……! ハルユキ君……!) 必死に、世界で一番大切な男の子の優しい笑顔を思い浮かべようとして、黒雪姫はゼロになった。 3◆◆◆ 「黒雪姫! 黒雪姫! しっかりしてくれよ、黒雪姫ッ!」 俺は黒雪姫のアバターを必死に揺らしながら叫ぶけど、彼女は何も答えてくれない。 その体に刻まれている無残な傷跡には見覚えがある。月海原学園からネットスラムに向かう最中にも見ており、ニコも受けたであろう爪だ。あまりの痛々しさに目を背けたくなるが、そんなことは許されない。 今はただ、どうすれば黒雪姫を助けられるのかを考えていた。肉体が消えていないので死んでおらず、気を失っているだけかもしれない。でも、すぐ近くで苛烈な戦いが起きているのに、呑気に構えていられなかった。 「ど、どうすれば……!?」 「ジローさんッ! 黒雪に、何があったんだ!?」 焦りで考えがまとまらない俺の耳に、焦燥感に溢れたキリトの声が響いてくる。 ユイちゃんが巨大なモンスターになって、しかも黒雪姫がオーヴァンに酷い傷を負わされた直後だ。冷静でいられるわけがない。 でも、俺はキリトのことも心配だった。 「キ、キリト! お前……大丈夫なのか!?」 「全然、大丈夫じゃない。だけど、なんとか生きてる…………って、今は俺のことよりも黒雪だ! まさか、黒雪は……!」 「アバターは消えてないから、多分生きていると思う! でも、全然起きてくれないんだ! オーヴァンのせいで……!」 みんなを傷付けたオーヴァンと、何もできなかった俺自身の怒り。 やり場のない感情は胸の中にこびりついていて、ただ表情をしかめるしかできなかった。 「……あれ? キリト。お前、どうして剣を持っていないんだ?」 その最中、俺はキリトが剣を構えていないことに気付いてしまう。 いくらフォルテがユイちゃんに戦いを挑んだからって、キリトが剣を下ろすとは考えられなかった。 俺は疑問を口にした瞬間、キリトの表情が一気に曇る。 「俺の剣はフォルテに破壊されて、残ったアイテムと力はみんな奪われた……だから、俺は戦うことができない」 「なっ……マジかよ!?」 「俺はユイやジローさん達を守りたかった! でも、もう無理なんだ……!」 悲痛な言葉を聞いただけで、キリトの憤りと悲しみが伝わった。 キリトの身に何が起きたのかを俺は知らない。ただ、ユイちゃんに戦わせてしまい、自分が何もできないことを悔しんでいるはずだ。 俺だって、力がなかったせいでニコを死なせたから、キリトの気持ちはわかる。今だってユイちゃんが戦うことになってしまい、どんな酷い目に遭わされてもおかしくない。 だけど、今の俺がキリトに何を言えばいいのか、全然思いつかなかった。 「――――うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 俺の葛藤をぶち壊すような、ユイちゃんの叫び声が響く。 顔を上げた瞬間、イニスになったユイちゃんが巨大化したゴスペルと戦っているのが見えたけど、様子がおかしかった。 「ゆ、ユイちゃん!? 大丈夫かー!?」 俺の叫びが聞こえていないのか、ユイちゃんは答えてくれない。 その姿に恐怖を感じる。上手く言えないけど、ユイちゃんであってユイちゃんでいなくなっているような……得体のしれない不安で胸がいっぱいになった。 体力が 8下がった こころが 9下がった 信用度が 2下がった 技術が 10下がった next 世界の終わりがはじまる力
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登録日:2011/03/29(火) 02 01 50 更新日:2023/09/09 Sat 15 06 57 所要時間:約 7 分で読めます ▽タグ一覧 DTB ● 「花は好きか?」 「花は好きだな?」 チート ネタバレ項目 ハーヴェスト 最強のコミュ障 漆黒の花 ※ネタバレ注意※ この項目にはDTBシリーズのコミカライズ作品である『DARKER THAN BLACK -漆黒の花-』に関する極めて重大なネタバレを含んでいます。 その為、閲覧は自己責任でお願いします。 「花は好きか?」 ハーヴェストとは漆黒の花に登場するキャラクターの中でも重要なキャラクターであり、物語はハーヴェストが黒(ヘイ)に語りかけるところから始まる。 ●容姿 ギザギザした眉毛に、胸元まで伸びる白髪と、左頭部に2本刺さったプラグが特徴的な筋肉質の巨漢。 また上半身は何も身に付けておらず、身体にピッチリと密着したズボンと外套のみ。 ただし普段から黒い花を大量に寄生させているため、ズボンはモサモサした植物に包まれており、胸から腹にかけて黒い花の紋章が刻まれている ●人物 契約者である。対応するメシエコードは不明でパンドラのデータベースにも無い特異な存在。能力は「物質分解」。 自身に寄生させた黒い花を利用し、様々な人間に「契約者にしてやる」と言い花を植え付けている。 アンバーの忠告を受けた黒はこのハーヴェストの行動を危険視し命を狙っている。 ●契約能力 「物質分解」能力。発動条件は「接触する」事。 対価は「丸いものを飲み込む」こと。 これは窒息しないギリギリの大きさでないと効果が無いと言う難儀なもの。 ただし支払い行為自体は一瞬で簡単に済むため、飲み込む物さえ用意してあればあらゆる状況で対価の支払いが可能。その点はかなりの長所と言える。 対価の条件に丁度良い市販の飴玉を買い(?)溜めて常備している。コンビニやスーパーで普通に買ってるとすると中々シュールである。 能力はシンプルゆえに非常に強力。 物質なら固体だろうが気体だろうが何にでも効果があり、 人間に使えば泥のように液状化してしまい、毒ガスや催涙ガスなどを使用しても無害な気体に「分解」してしまう。 彼の前ではあらゆる障壁が意味を成さない。 最大の強みはその異常なまでの発動スピード。 例え50口径のライフル弾が命中しても、触れた瞬間に体に食い込む前に分解し、運動エネルギーごと霧散させると豪語。 彼にとっては銃弾も「小麦粉」と同じである 触れれば即死、遠距離攻撃は無効化、足止めすら困難。まさに悪夢。 シンプルな対処法は炎や熱などの分解されない攻撃。 物理攻撃でも物体に電気を流すことで分解をある程度阻害できる。 また、任意で発動する能力なのでハーヴェストが能力を発動させる間もなく仕留めるという力技もある。そんなのできるの彼女くらいだろうけど。 なぜか黒の電撃に触れると共振して周囲の物体を消し飛ばしてしまうのだが… ●目的 感情を食い対象に特殊能力を付与する黒い花を多くの人間に寄生させる事。 花には意識があり寄生させた人物の記憶をコピーするほか全ての花は感覚を共有させている。 この花は寄生した対象がほぼ100%命を落とすと言う極めて危険なものであり、セルゲイを始め一部のパンドラの人間にも危険視されている。 ※以下ネタバレ注意※ ●ハーヴェストの本名は「マシュー・エドナー」といい元パンドラの契約者。対応するメシエコードはHV117、パンドラに協力した時点で天文部の情報はすり替えられていた。 実は南米戦争にも参加しており当時の頭髪は黒かった。後述の能力で人間を跡形も残さず消してしまう能力とその容姿から『亡霊(ファントム)』の異名で恐れられた。 当時から非合理的なつながり(思考)を嫌い、契約者であることを誇りに思い更にその中でも強力な能力で特別な存在であると自負していた。 しかし敗北してかろうじて一命を取り留めたようだが実験体扱いとなった。 話は遡り、黒い花はゲート内にしか存在できず、特殊な能力を寄生した人間に与えるが代償として命を奪ってしまうという欠点があった。 この花を軍事利用しようとする派閥も生まれ(ハーヴェストを実験体扱いした派閥)、研究の過程で人間ではなく契約者に寄生させるという実験を行い、ここでハーヴェストは一度死亡した。 しかし一期終盤で黒がヘルズゲートのサターンリングを破壊した際にその時のショックで蘇生した。 ●目的 契約者の中でも特に『合理的な思考』にこだわっており、人類の「社会性」、「心のつながり」、「感情」などの要素を全て『非合理』なものとして侮蔑している。 そして合理的な思考を持つ契約者こそが進化のあるべき姿と考えているが、その契約者ですらまだ完全な『合理的な思考』を持っていないとしている。 最終目的は、人類の持つ非合理性の根本である『繋がり』を消し去る事。 その為、他者との繋がりを捨てる事が出来ない黒とは正に正反対であり、お互いの未来の為には決して相容れない存在だった。 また、黒い花に寄生された人間は普段溜め込まれていた一つの感情を爆発させ、その感情と記憶で花は育つ。 その為モラルや法に捉われず目的を果たそうとするのだが、成長段階の花を覚醒させるには殺意などの強い感情のインパクトが必要であり、 ハーヴェストはさらなるインパクトの為に寄生させた人間に最も大切な繋がりを自らの手で絶たせていた。 ●共振現象の謎 ハーヴェストの分解能力の最大の驚異である発動スピードだが、その理由は分解のメカニズムが「電子と電子の結合を遮断する」という単純なものである為。 そして黒の本来の能力は電子を操作し物質の組成を組み替える「物質変換」であり、両者とも電子に深く関る能力の為、 正面から能力がぶつかると共振してしまい周囲の電子をバラバラに吹き呼ばしてしまう事が原因である。 ●劇中での活躍 黒に命を狙われながらもその能力を利用し逃亡を続け、黒い花を様々な人間に寄生させ育てる。 最後に寄生させた梓を親友の響子と殺し合わせる事で花の進化を促そうとし、妨害に来た黒を殺害しようと戦闘、一度目の共振が起きた。 この共振でお互いの能力の類似性に気づいたらしい。 共振に巻き込まれ、自分をかばい響子が死亡したショックで覚醒した梓の邪魔をさせないように影で動き、警察の目をひきつける囮になる。 この時、日本の警察を完全に見下して手玉にしていたが、霧原未咲率いる外事四課と協力者であるセルゲイ達に完封された事で見解を改めている。 また、未咲に対してなぜ非合理な行動をするのかという問いを投げている。 捕獲される寸前に花を切り離し、後に大量の花を生物のように動かし護送車を破壊し松本さんの左腕を分解し負傷させ逃亡した。 その後パンドラ内で花の軍事利用の為に暗躍していた西島一派とマスクレイ将軍の部隊が梓の花を確保し、 人間に特殊能力を持たせた「覚醒部隊」を組織し用済みとして狙われる。 しかし刺客として差し向けられた覚醒兵の部隊を花を植え付け支配する事で返り討ちにし西島ビルを逆に急襲。 花の本体を奪おうとし駆けつけた黒達と最終決戦へ…─── ●最終決戦 実は黒い花はそれ自体が契約者、つまり生きた人間。 契約能力は「花を植えつけて他人を支配する」、対価は「自分の存在の段階的な喪失」。対価を払いすぎて「肉体」という究極の存在証明を失い、花だけが残っていた。 感情や記憶を吸い成長するのは他人の存在の記録を吸って自分の存在を取り戻し、 同時に大勢の人間に寄生させる事で自分の存在を確立させ、世界との繋がりを取り戻す事が目的だった。 寄生された事でそれを知ったハーヴェストが、復活後互いの目的の為に協力関係を結び実際にも互いに利用しあっていた。 ちなみに寄生による暴走はハーヴェストの目的に沿っているが、 開花時に寄生主を死なせることはハーヴェスト・黒い花の双方共に本意ではなく、実際梓の件で制御できるようになってからは事の重大性や善悪はともかくとして開花で死なせてはいない。 そして流星の欠片で能力を増幅した花の契約者が人類を花で包み、感情を爆発させ非合理な「繋がり」が無い世界を創ろうとする。 それを止めようと駆けつけた黒と最後の決戦の最中、過去にアンバーと黒、白のチームを奇襲しようとしてアンバー一人にナイフ一本で全滅された事、 特別だと思っていた自分の存在を全て否定された事、 更にその時アンバーに「ただの人間である黒にも劣る」と言い捨てられた事が屈辱となって刻まれていた事を叫びながら、黒に襲い掛かる。 ●末路 対価も無視して黒を殺す為だけに能力を使い続けるハーヴェストに対して共振で周囲の人間を巻き込みたくない黒は全力を出せずに苦戦する。 しかしハーヴェストは共振のぶつかり合いを制する事でしか決着はつかないとしお互いの望む結末をかけて真っ向勝負に。 激しく能力がぶつかり合う中、花の契約者が手放した流星の欠片が、周囲の契約者全ての能力を強化した為、異常規模の共振が発生した。 電子の支配という点では黒の方が支配力は上だったが、ハーヴェストは能力の発動スピードと必要なエネルギーの差で圧倒し黒を吹き飛ばした。 しかし銀の呼びかけやパーセル、梓達や命を落とした仲間たちとの繋がりで力を取り戻した黒がハーヴェストに反撃、能力を裏返され自分が分解され消滅した。 死に際に黒に「繋がりを破壊する事しかできないお前の居場所は未来にない」と言われ、流星の欠片かそれとも別の「何か」が黒の選んだ未来を選択した事、 そしてこの世に肉体の欠片も残さない「繋がり」のない最期を「私にふさわしい最期」と自嘲しながら消えていった。 他人との繋がりを描く本作において、過去の屈辱という繋がりに拘った彼も、ある意味非合理的な契約者だったといえるだろう。 合理性を求めるが故の『合理的行動と非合理性を否定する行動』に終始しているため、契約者らしいと言えば契約者らしい。 ──追記修正は好きか…?── △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
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小さいころは夢見がちだった 今だって、どっちかというと目の前のことより頭の上 ぜったいぜったい、空も飛べると思ってた ううん 今でもちょっと、思ってる ほら、手を広げればすぐ、 こんにちは、柊つかさです それは、夏休みと文化祭の、あいだの出来事でした 猫が、しゃべった それも、阿笠博士みたいな声で たぶん日曜日だったと思う。その日は12時に起きたから 近くを散歩してたら、キョンくんたちがいた ああ、文化祭で映画やるっていってたなあ そのときは、そんな軽い気持ちで声をかけようとした シャミ「考えることはない。その少年の意志を奪い取ってしまえばよいではないか」 最初は腹話術だと思った でも、ぜったいぜったい、違うと思う だってキョンくんも古泉くんも、あんな渋い声出せないから だからきっとあれは、猫の声 わたしは一目散にかけだした 走るのは苦手だけど、精一杯駆け足をした 頭の上から、目の前に何かが広がった お姉ちゃんも お父さんも お母さんも いのりお姉ちゃんも まつりおねえちゃんも 誰も、信じてくれなかった 「電波入ると、好み分かれるんだヨねえ・・・」って言ったこなちゃんも 「ええと、その・・・・・・い、一応調べてみますね」って言ったゆきちゃんも きっと信じてない でも それでも、しゃべったんだもん 猫は、ぜったいしゃべったんだもん! そうだよね? つかさ「キョンくん!!」 次の日、キョンくんのクラスに突っ込んでいった キョンくんなら、何か知ってるはずだもん つかさ「昨日、猫しゃべったよね?」 麦茶だと思って飲んだら薄口しょうゆだった時みたいな顔の、キョンくん キョン「・・・ええとだな、つかさ」 つかさ「うん」 キョン「猫とはなんのことだ?」 つかさ「昨日キョンくんたちと一緒にいた猫」 キョン「・・・見たのか・・・?」 つかさ「見たよ。聞いたし」 キョン「あれはだな・・・そう、腹話術だ」 キョンくん、なんでそんなに慌てるんだろ つかさ「ほんとに?」 キョン「ほんとだ」 つかさ「猫しゃべらない?」 キョン「しゃべらん」 谷口「なんの話だ?」 …・・・なんか余計な人がきた 谷口「キョンとちいらぎか。珍しい組み合わせだな」 キョン「お前からしたら、大抵のコンビは珍しい組み合わせだろうよ」 谷口「キョン・・・お前はそろそろ夜道に気をつけたほうがいいぞ。マジで」 つかさ「ってちょっとまってっ。なにそのちいらぎって・・・?」 谷口「小さいほうの柊だから、ちいらぎ」 お姉ちゃんと身長、そんなに変わらないのに・・・ キョン「なんてことないヨタ話だ。お前の興味があるとも思えん」 谷口「なるほど。そうやって泉も柊もたらしこんだ訳だな」 キョン「お前な・・・少しは素直に俺の話を聞けんのか」 谷口「で今度は姉妹丼か。涼宮と泉に刺されんなよ?」 キョン「だから聞けって」 谷口「まあその前に、うちの男子が先かもしれんがな」 …はっ。いつの間にか聞き役に・・・ だめだめ、こんなことだからいつまでも天然なんて言われるんだ・・・! わたしは思い切って声をあげた つかさ「キョンくん!」 キョン「な、なんだいきなり叫ぶなつかさ・・・」 ちょっと恥ずかしいけど・・・がんばれ、わたし! つかさ「今日、キョンくんち、行っていい?」 谷口くんが刃物もってこいって叫んだり タイミングよく帰ってきた涼宮さんがキョンくんにドロップキックしたり こなちゃんが「フラグ成立!!」って騒いだり お姉ちゃんが微妙な顔したりしたけど・・・ なんとか、キョンくんの家まで来れた 大丈夫だよお姉ちゃん、わたしキョンくんには興味ないから! 興味あるのは、あの猫だけ でも、男の子の家に行くの、なんか緊張するなあ・・・ ちょっと、インターフォンを押す指が震える ええい、がんばれつかさ! インターフォンを、思いっきり押、 谷口「なんだちいらぎ、早かったな」 …・・・またなんか余計な人がきた キョンくんち行くって言ったの聞いたはずなのに、、 なんでこの人いるんだろう? 谷口「キョンならまだいねよ、さっき俺も呼び鈴押した」 つかさ「そっか・・・えと。谷口くんもキョンくんに?」 谷口「ああ、ちょっと借りもんを返しにな」 つかさ「ゲームかなにか?」 谷口「いや、まあそんな感じかな。気にすんな」 谷口くんは、なんでか慌てて手に持ってた雑誌を隠した。 でらべっぴん・・・・・・てなに? 谷口「そ、それよりよちいらぎ。お前はキョンに何の用なんだ」 つかさ「んと。ええと、ね?」 きっと谷口くんも信じてくれない 誰だって、信じてくれない でも、嘘はつけない だってわたしは、嘘がとても苦手だから それにもしかしたら、 もしかしたら、谷口くんも、空を飛べるって信じているかもしれないから 谷口「ああ、お前バカかよ」 全然信じてくれなかった 口も悪かった 谷口「お前なあ小学生じゃあるまいし。つかショーボーだって今どきそんなホラ吹かねえよ」 ひどいよ谷口くん・・・ もう少し、言い方とかあると思うけどなぁ つかさ「で、でもっ。わたし見たんだよ、映画の撮影中に猫が、」 谷口「幻聴だろ。じゃなかったら腹話術」 つかさ「でも!すっごい渋い声だったもん。あんなの高校生じゃ出せないよ」 谷口「近くのイカれたおっさんが独り言でもつぶやいてたんだろうよ」 ちがう ぜったい、ぜったい違う あれは猫がしゃべった 根拠もないし証拠だって全然ない だけど、だけど、 谷口「あのなあちいらぎ」 ちょっとだけ、谷口くんの声が優しくなった でも、ちょっとだけ疲れた声だった 谷口「お前、成績どれくらいよ?」 つかさ「うーと・・・下の下、じゃないと思う」 谷口「じゃあ今度の運動会でどんだけ活躍する?」 つかさ「ビ、ビリじゃないくらい、かな」 谷口「じゃあ得意分野はなんだ」 つかさ「えと、料理なら、少しは・・・」 谷口「じゃあ将来凄腕料理人になれるか」 何を言いたいか、わたしにはわかった だんだん、何かが頭の上にのしかかってくる それは、わたしの嫌いなことばだ ひらがなで三文字、漢字で、二文字 谷口「いいかちいらぎ、お前はな」 やめて、言わないで 谷口「普通なんだ」 谷口「何か人よりも数段優れてるとこもなきゃ、特別な才能があるわけでもない」 谷口「だから人とおんなじ生活すんのがやっとこさなんだよ」 谷口「お前レッドカーペット歩けるか?月に行けるか?スペースシャトルでもいいや、乗れるか?」 谷口「特別な奴は特別な世界を見れるさ、普通な奴が普通な世界を見れるのとおんなじでな」 わかってた そんなの、ずっと前からわかってたもん つかさ「じゃあ谷口くんはどうなの」 そのとき、わたしはすごく意地悪な顔をしてたと思う でも、谷口くんは、全然いやな顔をしなかった 谷口「俺も普通さ、超のつくくらいな」 つかさ「谷口くんは、それでいいの?」 小さいころは夢見がちだった 誰だってそうだと思う でも、いつの間にかみんな我に帰るんだ わたしだけが、きっと、まだ浮ついたまま みんなとは違うどこかに行けると思ってたんだ キョン「あのな、痴話喧嘩を家の前でやるの、やめてくれないか」 知らない間に、涙が出てた 谷口くんは逃げるように謝りながら帰っていった キョンくんは、おっかなびっくり部屋に入れてくれた 部屋にはあの猫(シャミセンって名前だって)がいた わたしは泣いているばっかりで、なんにも言えなかった キョンくんもどうしていいかわからずに、黙ったままだった しばらくすると、キョンくんはお茶を持ってくると言って、部屋を出た かっこわるかった 当たり前のことを言われて、ばかみたいに言い返して 当たり前のことなのに、涙までだしちゃって 本当にかっこわるい キョンくんだって、そりゃあどうしたらいいかわかんないよ 一緒にいても、つまんないもんね でも、だから 今がチャンスだと思った わたしはシャミセンをひっつかむと、キョンくんの家を飛び出した どこをどう走ったのかわかんなくなった 山道みたいなのは確かだと思う 近くに山なんてあったかな? これってぜったい窃盗だよね 猫窃盗で17歳少女逮捕 なんてかっこわるいんだろう いやいやまてまて、つかさ 本番はこれからだ わたしはポケットから猫缶を出した つかさ「ほらシャミちゃん、猫缶だよー」 シャミ「にゃあ」 つかさ「欲しいならしゃべってちょうだいなー」 シャミ「にゃあ」 つかさ「いただきますって言ってごらんよー」 シャミ「にゃあ」 つかさ「言わないとわかんないよー、ほらほらー」 シャミ「にゃあ」 にゃあってしゃべってるわけじゃ・・・ないよね絶対 木に登らせてみたり 後ろから追いかけたり ジャイアントスイングしたり 色々してみた でも、やっぱりしゃべってくれなかった キョンくんは困ってると思う シャミちゃんだって、きっと困ってる こんなことまでして、わたしは何がしたかったんだろう 誰かに迷惑をかけてまで、わたしは空を飛びたかったの? 空が飛べるなんて、まだ思ってるの? 本当に、本当になさけないし、かっこわるい でも、なによりなさけないのは、 帰り道が、わからないことだった どうしようどうしようどうしよう わたしは頭の中を精一杯働かせてみた けど、どうせ下の下じゃないくらいの頭だった そうだ携帯、 圏外だった 猫の帰巣本能をたよりに、 シャミちゃんは寝ていた 近くに家とか、 まったくなかった 電話BOX、 影もない 時間は8時 だんだんと、暗い夜がせまってくる 誰か、誰か たすけて!! 谷口「こんなとこにいたか、ちいらぎ」 今だけは、余計な人なんて思わなかった ごめんね、谷口くん。余計だなんて思ってて 谷口「キョンが探してたぞ」 つかさ「谷口くん、どうして・・・?」 谷口くんの顔に汗が垂れたのは、 暑さのせいかな? 谷口「お前がキョンち飛び出したのが見えたんだよ。おま、勘違いすんなよストーキングじゃないからな」 つかさ「そんなこと、思わないよ」 谷口「で追ってきてみたら学校の裏山。ここらへん痴漢出るから危ないんだぜ?」 つかさ「そっか」 谷口「そろそろ帰るぞ。お前んちの親だって、心配するだろが」 つかさ「そうだね。谷口くん、」 谷口「?なんだ」 どうしようもなくなさけなかった 空を飛べると思ってたことも そんなことないってわかったことも わかったつもりで、やっぱりわかりたくないことも 全部、なさけなかった ごめんね、と言おうとしたんだと思う でも涙と鼻水と嗚咽でのせいで、全然そんなふうには言えなかった つかさ「ご、ぶぇん、っね・・・」 何言ってるかわかんない すごく、かっこわるい 谷口「あ、あのなあちいらぎ、謝るのはキョンにだろがよ」 つかさ「そう、っね、ご・・・んね」 谷口「ああもうどうしたらいいもんだか・・・」 谷口くんが、手をあげた ぶたれると思ったら、そうじゃなかった 谷口「よ、よしよし」 それは髪の毛にもふれてない、手を頭の上で上下させただけの、 全然なってない「よしよし」だった でも、 それでも、わたしはとびっきりに嬉しかった 帰り道、谷口くんの自転車の後ろに乗りながら、こう言ってやった つかさ「ありがとね、ぐっちー」 背中ごしでも、彼がびっくりするのがわかった 谷口「お前・・・俺がそんなツラに見えんのか」 つかさ「ちいらぎのお返しだよー」 谷口「ほんと幼稚なのな、ちいらぎって」 つかさ「幼稚だってなんだっていいもん」 谷口「さよか。ロリ以外には需要なさそうだな」 やっぱり、口はわるいと思う つかさ「ぐっちーのばか!そんなこと言っていいの?」 谷口「ああん?」 つかさ「もう後ろに乗ってあげないんだから」 谷口「妹みたいなやつ乗せたって、うれしかねえよ」 つかさ「ぐっちーが女の子と二人乗りなんて、今後いっさいないんだよー」 谷口「断定かよ」 夜空には、嘘みたいに綺麗な月が出ている わたしは空は飛べないかもしれない でも、こんなにも素敵な夜に出会えるんだ 最後に思う あれは誰だったんだろう わたしはシャミちゃんと別れる前、猫缶を食べさせてあげた シャミちゃんはそれはそれは食欲旺盛なコみたいで、ペろりと一缶たいらげた そのときは、わたしの他にはぐっちーしかいなかった だけど、ぜったいぜったい、ぐっちーじゃないと思う だってぐっちーは、あんな渋い声出せないから だとしたらあれは、誰だったんだろう 「ごちそうさま」 と言ってくれたのは 終わり そして・・・「おまえは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
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◆1SKekTLbsk 投下作品 132 黒い花の向こうへとたどり着けるなら 作品に寄せられた感想 名前 コメント